2025年3月11日に名古屋高裁の判決が出ました。
札幌高裁、東京高裁、福岡高裁に続き、同性カップルの婚姻を認めていない現行民法と戸籍法の規定を違憲としました。
根拠条文は、14条1項と24条2項です。
婚姻の本質を、男女間の結合関係から生まれた子の保護・育成ではなく、「永続的な精神的・肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むこと」に求め、これを同性カップルにも保障すべきとするのであれば、憲法24条1項の婚姻も異性間のものに限る必要はないと思いますが、そのような判断はしていません。
14条1項
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。 |
24条2項
配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。 |
【14条1項に違反するか】
【基本となる考え方】
明治時代以降、家族は、男女の人的結合関係(婚姻)を中核とし、その間に生まれた子の保護・育成を担うものであると捉えられており、本件諸規定の制定当時も、このような家族観が支配的であったことからすれば、男女の人的結合関係を保護し、これを公証するという法律婚制度を設けるという本件諸規定は、制定当時においては合理性を有していたものといえる。
しかし、婚姻の本質は、両当事者が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにあり、どのような人的結合関係について法律制度を定めるかということについては、婚姻や家族の形態、婚姻や家族の在り方に対する国民の意識、国内の及び諸外国の状況等の種々の事柄を総合的に考慮して決せられるべきものであるところ、これらの事柄は時代と共に変遷するものであるから、本件諸規定の合理性については、個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らして不断に検討され、吟味されなければならない。
【国民の意識の変化】
同性カップルを保護し、同性婚の法制化に賛成する国民の割合が増加している。
一定数の国民が反対の意見を有しており、これは、かつて同性愛が精神病的なものとされていたことも影響している可能性があるが、婚姻の重要な要素として、男女が共同生活を送り、子を産み育て次世代へ承継していく営みがあるとの家族間が反映されていると考えられる。
しかし、婚姻の本質は、単に生殖と子の保護・育成のみにあるわけではなく、両当事者が永続的な精神的・肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにある。このような生活共同体は、同性カップルも形成できる。
また、婚姻した夫婦の子の養育は、一方のみと血縁関係にある子、養子、里親の委託を受けた児童を対象としても行われているのであるから、同性間の人的結合関係でも次世代の構成員の確保の機能を果たすことができないとは言い難い。
司法は、多数決原理では救済することが難しい少数者の人権をも尊重擁護するという責務を負っている。本件諸規定により自らの意思で選択・変更できない性的指向を理由として婚姻に対する直接的な制約を課されている同性カップルを保護することは、司法がその責務を発揮することが期待される場面である。
【諸外国の状況】
2017年には、米州人権裁判所が、登録パートナーシップ制度等の婚姻とは別の制度を設けることは、性的指向に基づく差別を生み出すことになる旨判断する等、同性カップルに法律婚制度ではなく登録パートナーシップ制度等の別の制度を設けること自体が差別的な取扱であると判断されるようになっている。
現在まで、少なくとも39の国と地域が同性婚の法制化をしており、G7において同性婚又はこれに準じた制度を導入していないのは我が国のみである。
自由権規約委員会等から同性婚の法制化が勧告されている。
【地方公共団体や民間企業の取組】
平成27年に地方公共団体において初めてパートナーシップ制度が導入され、導入している地方公共団体は、令和6年2月時点で391あり、人口にして、国全体の約85%に及んでいる。
民間企業においても、同性婚の法制化に賛成する企業が500社を超え、同性カートナーを家族として取り扱うものも増加している。
【小括】
同性愛自体は、疾病や障害ではなく、自らの意思で選択する余地のない性的指向によるものであるとの知見が確立するとともに、そのような性的指向を理由として差別をすることは許されないという考えが、国内外を通じて急速に確立してきているといえる。
【同性カップルが受ける不利益】
同性カップルは、法律婚制度を利用できないことにより、法律婚による法的利益や居住、就労、両用その他の社会生活上の様々な場面での社会的利益を享受することができない。それだけでなく、法律婚制度による、人的結合関係が法的に保護され、公証されることによって安定的で充実した社会生活を送る基盤となるという個人の尊厳と結び付いた本質的価値を享受することができないため、個人の尊厳が損なわれているという不利益を受けている。
【同性婚を認めることの影響】
確かに、婚姻及び家族に関する事項は、国の伝統や国民感情を含めた社会情勢における種々の要因を踏まえ、総合的な判断によって定められるべきであるが、同性カップルが法律婚制度を利用することができるようにすることで、国民が被る具体的な不利益は想定し難いし、地方公共団体のパートナーシップ制度の導入により弊害が生じたという証拠はない。同性婚の法制化によって、子の保護・育成機能を重視する家族間を直ちに否定することにもならない。
民法の嫡出推定に関連する規定についても、同性婚法制化の弊害とはならない。戸籍法も、「夫婦」を「婚姻の当事者」、「夫又は妻」を「婚姻の当事者の一方」と性別中立的な文言に変更するといった法改正で足り、膨大な立法作業が必要になるとはいえない。
【結論】
本件諸規定は、個人の尊厳の要請に照らして合理的な根拠を欠く性的指向による法的な差別取扱いであって、憲法14条1項に反する。
【24条2項に違反するか】
憲法24条2項は、婚姻及び家族に関する事項について、国会の裁量を認めているが、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきとして裁量の限界を画しているから、不合理な区別として14条1項に反する場合には、裁量の限界を超えたものとして24条2項にも反する。