日本学生支援機構に対して、保証人らが支払った額の一部の返還などを求めた件で、2022年5月19日、札幌高裁の判決が出されました。
原告(保証人又はその相続人)は、以下の請求をしていました。
①不当利得に基づき、自己の負担部分を超えて支払った額の返還
②機構が①が不当利得に当たることを知っていた(悪意の受益者)として、①について支払った日からの利息(民法704条)
③分別の利益を秘して全額の支払いを請求したことが不法行為に該当するとして、慰謝料とその遅延損害金
一審の札幌地裁は、原告らの請求のうち、①のみを認めていました(※1)。
先日の札幌高裁判決は、③は認めませんでしたが、①と②を認めました。
②については、次の理由で「悪意の受益者」であることを認めました。
- 不当利得の発生根拠となる事実関係を全て知っていた
- 保証人が分別の利益を有していたこと(法的根拠)を認識していた
- 分別の利益の主張が必要と誤解していたとしても、それが不要であることは通説であってほぼ異論を見ないこと、機構が公的機関であることからすると、分別の利益について保証人の主張を要すると誤解したことについてやむを得ないといえる特段の事情があるとはいえない
③については、次の理由で否定されました。
慰謝料請求については同種の裁判例が乏しく、機構が請求に法的根拠がないことを隠し、あえて全額請求したとまでは言えないし、分別の利益について説明すべき法的義務があったともいえない
しかし、悪意の受益者であるとして②を認めながら、③を否定するのは一貫しないようにも思えますし、②の判示からすると不法行為が成立すると解することも十分可能だと思います。札幌高裁は、不法行為を成立させるだけの違法性は認められない、と判断したのかも知れません(悪意のハードルよりも不法行為のハードルの方を高く設定した、ということです)。
札幌高裁判決については、原告も被告も上告せずに確定したようです。
機構は、この判決を承けて、負担を超えた分を返還し、今後は分別の利益を有する保証人には、残額の2分の1のみを請求するとのことです。(※2)